B.バルトーク核
中国の不思議な役人
ID:BTB-WMPn Model:P96-12
僕は兄弟の稼ぎのためにとりあえず一肌脱ごうかと思うよ。
といっても僕は部隊編成もされてるし特殊固有機能も付与されてるのもあってしょっちゅう死んで記憶が飛ぶから今の僕をどこかに書き記しておくのが良いかと思ってこの資料に協力してあげようと考え付いたわけだ。
僕含め狂舞種はバレエ曲やオペラ曲が分類されてて大体部隊に編成されるんだけど、狂舞の中にはその物語の内容に沿った特殊固有機能がつくことがあるけどそれで僕は二回までなら例え死に至る外傷からでも復活できる。
これで調子にのって回数を忘れて三回目でほんとうに死ぬって言うのを何度もやってる。兄弟のみんなには呆れられてて、また死んだって言われる始末さ。僕の兄弟は皆他人に対しても兄弟に対してもドライな子が多いからね、復元されたばかりのまだ要領のつかめてない僕に対してめんどくさそうにしているよ。
でも世話はしてくれるから優しいんだよね、基本的にはつれないんだけど。舞踏とかほんとにばかにした顔で見てきていい加減死なない戦いかたをしろって、ごもっともだよね。
それで僕、夏以外は大体暇だから部隊の呼び出しはしょっちゅう食らうんだ。いつも僕と組むのは舞踏か、オケコン、あとコシュートにい。
弦チェは防御面が脆いから敵にぶつかっていく僕に合わせると巻き込んだりおいてけぼりを食らわせることになるから二人で出ていくことはないけど大規模作戦のときは回復の要だよ。
オケコンやコシュートにいは僕が見落としたりしたとこぜんぶ補ってくれたり、僕の不始末も潰してくれたりするからぜんぶ終わったあと怒られることが少ないかな。
舞踏は僕と大体一緒だから、僕としては一番組んでてて調子がいいんだけど毎回帰ってきたら機関に怒られるんだ。派手に散らかすのがダメなのかもね。舞踏は僕のほうがお兄さんだってのにちっとも兄さんとかにいとかで呼んでくれないんだ。
僕のほうがオーケストラ版が出るのも遅くてその間平行作業で舞踏が生まれたからまぁわからなくもないんだけど、にいって呼ぶのすごくかわいいから僕にも言ってほしいんだよね。
もっと下の弟や妹たちは言ってくれるのとってもかわいいからなでなでしたくなるよ。うざがられるけどね。
それでまぁ、僕がしょっちゅう死んでるからか知らないけど、たぶん作曲当時の風景っていうのかな、これがもう全くといっていいほどないんだ。
みんな作曲者の後ろ姿がとか手元がとか言うけど僕はそんなの何処にもないし、写真をみたときみんな、ぼんやりみたことあるようなそんな反応をするらしいんだけどもう僕は目鼻立ちのくっきりしたひとだなぁ~ってぐらい。昔の僕はそうじゃなかったらしいからきっと死にすぎてだんだん薄れてるんだろうね。
いっそ再履されればなにか覚えてるんだろうけど、この体はなるべく再履したくないって機関は言うよね。実はすごい偉い人の体だったりするのかな。まぁそのへんはどうでもいいや。
だからここには僕が次の僕に残しときたいことでも書いとくから、またこの僕が死んだら次の僕に見せてもらえると助かる。その方が次こそ学習して、死なずに済むかもしれないからよろしく頼むよ。
僕は不思議なマンダリン。直訳はね。広まってる名前は中国の不思議な役人。管弦楽のフィールドではあんまり演奏されないかも。
でも吹奏楽のフィールドではこの国ではわりと演奏される方。
僕もレッスンにいくのはもっぱら高校生の吹奏楽部に行ってる。でも内容が内容だから高校生には不健全だとは思うけど、そういうの気にしてないんだろうね。僕は学校に出向いて、聴いて、感想を言うだけ。あとは前で踊って見せたり。
若い子は見てるぶんには楽しいよ。話しかけられなければどうってことない。仕事だしね。
あとそう、吹奏楽部じゃなくても曲擬は学校の音楽の授業に行くからね。曲擬について知ってもらうための。まあでもそっちには僕呼ばれたことないから安心してね。大体バッハとかベートーベンとかモーツァルトの曲が行くから。これはどうでもいいや。
毎回死んで兄弟がめんどくさがるのは僕がいつも、前まで僕何を好んでたかって聞いてくることらしいんだ。だからそうここに好きなものも書いておくよ。
チョコレート。甘くてほろ苦くておいしい。僕は苦めのやつが好きかな。似た味の飲み物でココアっていうのがあるよ。
ラムネ。しゅわしゅわしたちょっとすっぱいつぶつぶ。いろんな味があるけど僕はラムネ味のラムネが好き。同じ名前の飲み物があるけどこっちはそんなに好きじゃないかな。しゅわしゅわしすぎてる。
いかの塩辛。見た目はグロテスクだけど僕が言えたことじゃないよ。ご飯に合う。でも僕はこれだけをちょっとずつ食べるのが好き。
夜の街の明かり。機関の病棟の屋上から見えるのが綺麗だよ。
トイレ。おちつく。でも長い間いるのはだめだよ、怒られる。
ねこ。かわいいよ。無闇に触ろうとしたり近付いたらだめ。僕はとくに怖がられるみたいだから、弦チェが慣れてるから弦チェにきいてね。
ピクニック。みんなでよく行く。お弁当を作ってちょっと遠出をする。
石廊崎。僕が話す事のできる数少ない人間だよ。それと芦港。この二人は信用できる。
曲擬、兄弟。みんな面白い。世間話をしたり、お互いの兄弟のことを話したりするのがたのしい。兄弟はみんな好き。ちょっと素直じゃない子も多いけど、だからこそ僕がみんなのことちゃんと好きなのを伝えてあげなきゃいけない。
ママ。僕は覚えてない。でも僕の前の僕も、そのまた前の僕もママのことが好きだって言ってたらしい。兄弟もみんなママのことが好きだし僕もほんとうにそうだったと思う。僕は覚えてない。でも僕を生んだ人を嫌いにはならない。それに僕は今この体で曲として生きることが楽しい。誰かに愛されることが嬉しい。演奏されることが、どこかで僕が聴かれていることが嬉しい。
人間とふれあうのは僕は苦手だろうけど、僕を愛してくれるのは兄弟や曲擬じゃなくて人間たちだから、人間たちに愛される僕を生んでくれたママのことを好きにならないはずがない。
ママのことは話でしかわからない。写真でしかわからない。映像も演奏も声も残っているけど僕の記憶には一切なにもない。それでも僕はママが好き。好きだと思う。だからママに感謝する。
ママが実際、どんなことを思って僕を書いたかなんて、そんなもの気にしない。誰かが仮に僕を駄作だと言ったとしても僕は他にたくさん愛されてる。曲は愛されるためにある。愛してもらった以上、曲として存在し得たことに感謝する。僕を生んだママに感謝する。
僕の好きなものはほかにもあるけど、今思い付くのはこれだけ。僕は曲として生きてる。
2011年5月B.バルトーク核中国の不思議な役人