曲擬用生活マニュアル
曲擬の皆さんが生きていくうえでまず知っておいてほしいことです。よく読んでわからないことは機関員か兄弟に聞きましょう。
概要
曲擬は第六聖典による特殊活動原理に基づき無形動力で活動することが可能な人ならざる者。
自身を他者に演奏してもらうことが一種の食事であり、自身が演奏された場合の演奏会の利益の一部や楽譜の販売、CDの売り上げの一部が収益となるように機関が定めています。
食事をし続けられる限り寿命というものは訪れませんが、食事がなければ飢え死ぬ上に致命傷を負っても死んでしまいます。
なので演奏を実施してもらうために曲擬自ら売り込みに行くことも大事です。
新しい兄弟が来たら
曲擬の体は精製型と素体型の二種類があり、精製型は一から人体を構築する製法、素体型は志願者の人間の体をいったん分解し再構築する製法です。
同じ作曲家の曲擬は兄弟です。仲良くしましょう。
曲擬は誕生してからまず、一か月ほど人間の体で生活するための訓練を機関施設内で行います。歩行訓練、食事、排泄、読み書き、体の仕組みの理解等。読み書きなどは制作時にすでに入力されているプリセットデータやプログラムとの照合、動作確認作業などです。
一通りこの訓練が終わると寮、あるいは兄弟のいる家で生活を開始できます。訓練の終わった兄弟を連絡次第迎えに来てあげてください。
生活
作曲家ごとにそれぞれ日本に活動拠点(屋敷、家か、機関の寮)と、出身国に実家があるところもあります。
通常の人間よりも少し怪力かつ頑丈。それ以外はいたって普通の人間と変わらない生活ができます。曲擬以外の生き物と接するときは力加減に気を付けてください。
日用品、消耗品、家屋、最低限の食料は機関から家ごとに毎月支給されます。あまりに多い量は却下しますが兄弟で相談したりして毎月ほしい量を申請してください。これについては別紙支給品申請報告のマニュアルを用意しています。
それとは別に各家自分たちで稼いだお金をある程度自由に使えますが、多く稼いだぶんは機関が回収します。
交流の深かった作曲家同士や出身国が同じもの同士だとご近所だったりしますので積極的に挨拶に行きましょう。
仕事
生活のため、おなかを満たすため、兄弟を養うため、そもそも機関が曲擬を生産する目的のひとつとして曲擬は仕事をします。大半は演奏指導、演奏評論、そして客演指揮で、曲擬は基本的に自らを演奏することは禁止です、演奏をしようとしたりすると進行するにつれて自我を徐々に失い狂ったように死ぬまで演奏を続けてしまう呪いが発動しますのでやめましょう。唯一自演が可能なのが指揮だけです。
抗呪、そして演奏を聴いた際に起こる快楽物質の発生を抑制する機能の付いた専用タクトを用いて指揮を行ってください。
他にも演奏立ち会いと呼ばれる本当に見に、聴きに行くだけの仕事もありますが演奏頻度の高い曲はこれで大忙しになったりします。仕事についても最初のころは機関から講習や指導があります。呼び出されたときは必ず応えてください。
演奏技能
君たちは腐っても楽曲の化身。自身に使用されている楽器であれば、少ない練習量でもそれなりの演奏技能を身に着けることが可能ですが、そこまでを常に保証できるほど聖典は万能ではありません。君たちができあがって最低でも三年はあらゆる楽器の演奏訓練を行います。その先も必ず一つ楽器を選び常に技能を保持、切磋琢磨する義務が君たちにはあります。
戦闘能力
曲擬の生産にはある程度のリスクとコストがかかります。その上曲擬を狙った「コレクター」と呼ばれる者たちに殺傷されてしまうケースが後を絶ちません。
よって機関は曲擬にたくさんの特殊能力を搭載することによって自己防衛させることを選びました。
通常の人間よりも怪力であり頑丈ですが程度は知れています。
浮遊や飛行等の移動逃避手段の拡張や、音波破壊能力、威嚇用武器の瞬間生産など様々ですが、人間に危害を及ぼすことを避けるため、殺傷能力の高い能力は自己防衛システムの限定解除信号が機関から許可されないと使用することはできません。
限定解除の申請方法は曲擬専用言語での音声入力送信とこめかみに埋め込まれている回路にモールス信号で入力する方法の二種類で、曲擬専用言語については最重要機密なのでむやみに発信しないでください。
戦闘方法は物理戦闘と音波攻撃とを組み合わせで行うように。
部隊
一度曲擬を殺したコレクターは人の形を保つことが難しくなる異形と化してしまいます。この異形状態を解除するため、あるいは衝動的に再び曲擬を殺そうとするため、次の被害を抑えるために戦闘能力の高い曲擬を選抜して機関直轄の戦闘部隊を編成しています。主に近衛、狂舞、砕歌の曲擬が編成され、活動は主に夜。異形化したコレクターは眠ることができず、夜になると人の形が保てなくなるので夜が好機だからです。
敵と悪魔
先ほど述べた「コレクター」や、戦闘部隊とは別に都度呼び出される清掃作戦で清掃する「常夜の泥」が主な曲擬が相手をする敵です。
コレクター……主に曲擬に演奏を強いる者と、曲擬の存在自体を嫌う者に分かれます。曲擬に演奏を強いた場合、演奏を一通りおえてしまうと自我を失い、そこから永遠に単調な演奏を繰り返すことになりますが、大抵単調な演奏を繰り返すうちにコレクターに殺されてしまいます。曲擬を殺した場合、機関にロスト信号が送られるのと同時に曲擬の死体から時限式呪詛が発動し、加害者は異形と化してしまいます。
常夜の泥……どろどろした黒い半液状の動く物体です。生命体から命を吸い取る、と想定されています。
生命体が触れるとたちまち触れた部分が枯れてしまいますが曲擬、星疑には影響がありません。詳しい正体が不明で研究のためと被害を抑えるために駆除、採取しなければなりませんので、泥の清掃作戦に曲擬が、研究に星疑が関わっています。
そして敵ではありませんが曲擬および機関を監視する平織家という団体が存在します。この平織から常に悪魔が派遣されていて曲擬も遭遇することがあります。出会ったらまずあちらは挨拶をしてきますので覚えておきましょう。しかし仲良くなる必要はありませんので警戒しておいてください。
権限
権限とは曲擬にだけ扱える特別な機能です。Ⅰ~Ⅳのタイプに分かれていて、戦闘で主に使うため大半は限定解除しないと使えません。ただしこれら権限のうち凡庸性の高いいくつかを限定解除なし、あるいは本来自身に搭載されていなくても使用できるようにした「添加媒体」というものを月に一度の配給や機関のショップで頒布しています。添加媒体もⅠ~Ⅳの権限も、曲擬の個体によって扱えるもの、扱えないものがありますので、個体カルテなどを参照してください。Ⅰ~Ⅳの権限に分類されず、特定の曲擬のみにしか使えない「固有権限」というのもありますので、こちらもカルテを参照するように。

種別 詳細あり
第六聖典法規による擬典分類での曲擬は無形目第一科曲擬属という分類になる。さらなる詳細は別記
碌礎種……頭がよくタフ。回復性能がとても高いが戦闘には向かない。燃費もあまりよくない。主に交響曲が分類される。
特化型碌礎種……碌礎種の特性に加えて回復力、破壊力、防御性能の何れかが特化している。主に協奏曲が分類される。
近衛種……攻守のバランスがよく、すべてのパラメータで平均以上の万能型。主に交響詩、組曲等が分類される。
狂舞種……戦闘力に非常に優れ、近衛種ほどではないが防御性能も高い。しかし燃費が悪い。主にバレエ曲、オペラや歌劇曲が分類される。
砕歌種……回復を捨て、すさまじい破壊力と防御性を持つ。燃費も良い。主に吹奏楽、ブラスバンド曲が分類される。
称和種……紡芽種よりも広域駆動が可能。そのため紡芽種よりは燃費がよろしくない。主に室内楽曲等小編成の楽曲が分類される。こちらも紡芽種に次いで被害が多い。
紡芽種……体が小さく、回復、攻撃、防御の何れかに非常に特化している。他者の回復が可能。主に器楽曲が分類される。コレクターの被害頻度が最も高い。
作曲者自身による多編成アレンジ等でアレンジ先種別の能力バランスを備えるものも多数。
その他
半年に一度定期検診があり、そこで限定解除信号の送信訓練やメンテナンスを行います。督促状に従ってください。
ほかにも運動会(四年に一度)、発表交流会(二年に一度)、新人歓迎会(毎年始恒例)等、機関主催での行事があります。案内があるので楽しみにしておいてください。
死(ロスト)
致命傷を負う、もしくは餓えで曲擬は死にます。
死ぬとは言いつつも機関の定義では「完全停止」となり、餓えではなく殺傷された場合は特に「ロスト」と呼びます。
完全停止した場合体の損傷具合によって「修復」「復元」「再履」と復帰までの段階が異なり、「修復」と「復元」は元の体の大半をそのまま使い復帰させるもので、「再履」は体ごと一からやり直すもの。機関や重要フォルダにバックアップされたデータやプログラム以外は初期化されるためほとんどのことを忘れてしまいます。
ロストした曲擬の場合、ロストしてから徐々に体の表面に黄色い燃料の結晶が浮き燃料を排出する現象が起こるので、これがあまり進行しないうちに機関に連れてきてください。
ある手順を踏むと、ロストしたはずの曲擬が停止せず、なおかつ演奏や食事ではなく曲擬の殺傷および捕食によって活動を可能とする「バグロスト」という個体が発生します。彼らはほかの曲擬を食べようとしますのでこれも部隊が駆除します。バグロストは怪異と同一ですので、バグロスト化した兄弟は元に戻ることはありません。潔くあきらめ、適切な対応をしましょう。これについては定期的な講演会で随時最新情報を共有します。